コンクリートの変形特性
応力ーひずみ曲線
コンクリートは骨材とセメントペーストからなる複合体で、コンクリートは完全な弾性体ではありません。外力を受けると骨材とセメントペーストの境界部からひび割れが進展していきます。載荷初期では直線的な挙動をしますが、載荷に伴ってひび割れの影響から曲線的な挙動へ変化し、破壊に至ります。以下は構成材料とコンクリートの応力ーひずみ曲線です。
コンクリートの弾性係数
図中において最大応力の約1/3までは直線的な挙動をしています。この直線的な区間における傾きのことを静弾性係数と呼びます。静弾性係数は応力度をひずみ度で除して算出することができます。
静弾性係数はどのように算出するかによって3つ種類に分けられています。
- 初期弾性係数(Ei):応力0のときの接線
- 割線弾性係数(Ec):ある応力におけるひずみの点と、応力0の点を結んだ接線
- 接線弾性係数(Et):ある応力における接線
JIS A 1149ではコンクリートの静弾性係数を以下のように定義しています。
コンクリートの静弾性係数:応力ひずみ曲線において、最大荷重の1/3のときの応力と縦ひずみ50*10^-6のときの応力点を結ぶ線分の勾配として与えられる割線弾性係数(Ec)
コンクリートの動弾性係数
コンクリートの動弾性係数は、コンクリートを弾性体と仮定し、振動周期や波動伝播速度などから求められ、非破壊試験で利用されることがあります。静弾性係数よりも約10~40%高い値を示します。
静弾性係数に関する例題
高さ200mm,断面積8000mm2のコンクリート円柱供試体に軸方向荷重80kNを作用させたときに軸方向の変形が0.1mmであった。さらに破壊するまで荷重を作用させたとき最大荷重は240kNとなりこのときの軸方向の変形が0.4mmであった。この供試体の圧縮強度とヤング係数を求めよ。
・圧縮強度(fc)の算出
最大荷重240kNを供試体の断面積8000mm2で割って応力を算出する。240*1000(N)/8000(mm2)=30(N/mm2)
・ヤング係数
コンクリートの静弾性係数(ヤング係数)は図中の式で表せる。ここで
Ec: 各供試体の静弾性係数(kN/mm2)
S1: 最大荷重の1/3に相当する応力(N/mm2)
=(240kN/3)/8000(mm2)=10(N/mm2)
S2: 供試体の縦ひずみ50×10^−6のときの応力(N/mm2)
与えられていないときは0と仮定
ε1: S1の応力によって生じる供試体の縦ひずみ
ひずみ:物体に力を加えたときの変形量の元の長さに対する割合を示す値
ひずみ ε=ΔL(変化量)/L(元の長さ)
S1のとき0.1mm変形があったのでひずみは0.1(mm)/200(mm)で表される
ε1=0.1(mm)/200(mm)=500*10^-6
ε2: 50*10^−6
式に代入すると
Ec=(10/450*10^-6)*10^-3=22.2(N/mm2)
クリープひずみ
クリープとは、一定の応力(力)が作用すると、時間の経過とともにひずみ(変形)が増大する現象を指します。これは特に長期間にわたる荷重が作用する構造物、例えば橋やビルなどの設計において重要な考慮事項となります。クリープ現象は大きく5つの段階に分けられます
- 弾性ひずみ
- クリープひずみ
- 徐荷時弾性ひずみ
- 回復クリープひずみ
- 非回復クリープひずみ
コンクリートのクリープに影響を及ぼす主な要因は以下の通りです
・乾燥環境下
・部材寸法が小さい(乾燥しやすいから)
・セメントペースト量が多い
・水セメント比が大きい
・空隙が多いコンクリート
・作用荷重が大きい
・載荷時の材齢が若い ★頻出★
ほどクリープが大きくなります。
ポアソン比
ポアソン比は、物体に弾性限界内で応力を加えたとき、応力に直角方向に発生するひずみと応力方向に沿って発生するひずみの比のことを指します。一般的に普通コンクリートでは1/5~1/7程度になることが知られてします。
コンクリートの力学特性
コンクリートの強度に影響を与える要因
①供試体が乾燥状態であると見かけの強度が増加する
コンクリートは骨材とセメントペーストからなる複合体で、適度に乾燥するとセメントペースト中の毛細管水やゲル水が蒸発し水和物同士の距離が縮まることで毛細管張力が大きくなり、見かけの圧縮強度、曲げ強度が増加する。ただし表層が乾燥しているだけでは見かけの強度は変化しない。
②鉄筋の種類と配筋の仕方
鉄筋の付着強度は鉄筋の種類(丸鋼、異形棒鋼)、配置方向(水平、鉛直)、配置位置(上、下)などで変化します。
丸鋼と異形棒鋼では鉄筋の形状から異形棒鋼のほうが付着強度が大きくなることは想像に容易いです。また水平に配置された場合、ブリーディングによって骨材が沈下していくので鉄筋の下に空隙が生まれやすく鉛直に配置された場合よりも付着強度が小さくなる。同様の理由から上に配置された鉄筋も周囲に空隙がうまれやすいため下に配置された鉄筋よりも付着強度が小さくなります。
③粗骨材の最大寸法
粗骨材の最大寸法が大きくなると、ブリーディングによって骨材の下に空隙や水隙が生じやすくなる。それによって荷重が加わった際、弱部となってひび割れを生じることで強度が低下する。
水セメント比の低い冨配合なものほど粗骨材の最大寸法の影響を受けやすい(圧縮強度が低下しやすい)
以下に簡易的な関係図を示します。
④コンクリートの養生温度
コンクリートの強度は、養生温度に大きく影響されます。一般的に、養生温度が高いほど早く強度が発現し、低いほど遅くなります。また、初期強度は、養生温度が高いほど大きく、低いほど小さくなります。一方で長期強度においては初期に養生の温度が高いと水和を妨げる水和物が生成されるため材齢に伴う強度増進は小さくなる傾向があります。
★初期養生温度が高い→初期強度 増 長期強度 減★
セメントの水和反応は、養生温度によって傾向が変化します。養生温度が高いほどこの反応は活発になり、その結果、コンクリートの強度は高くなります。しかし、養生温度が-10℃で水和反応が停止し、85℃以上になると結晶が粗くなり強度が著しく低下します。
各種強度
コンクリートの強度には圧縮強度のほかに引張強度、曲げ強度、せん断強度、支圧強度、付着強度など様々なものがあります。
・引張強度
引張強度は圧縮強度の1/10~1/13(圧縮強度が高くなるほどこの比率は小さくなります。)と小さいためコンクリート構造物の設計ではコンクリートの引張に対する分担は無視され、圧縮力のみを分担するように設計されます。
それ故に引張側に鉄筋を用いて引張強度を補強したものが鉄筋コンクリートです。
・曲げ強度
曲げ強度は圧縮強度の1/5~1/7程度になります。無筋のコンクリートでは曲げ荷重がかかると簡単に破壊してしまうことから鉄筋を用いて補強します。道路や空港などのコンクリート舗装では輪荷重により曲げ荷重が作用することから曲げ強度を用いて設計します。
・せん断強度
せん断強度は、圧縮強度の1/4~1/6程度になります。これは、コンクリートがどの程度のせん断応力(物体が互いに逆方向に動く力)に耐えられるかを示す指標です。
・支圧強度
コンクリートの支圧強度とは、ある断面の一部に局部的に力を受ける場合の強度を指します。具体的には、橋脚の支承部やプレストレストコンクリートの緊張材定着部などで、部材面の一部分だけに圧縮力が作用する場合に関連します。一般に、断面全体で力を受ける圧縮強度よりも支圧強度のほうが大きいとされています。
コンクリートの水密性
コンクリートは透水により構造物としての機能を失わないように所定の水密性を有している必要があります。
・コンクリートの水密性を評価する方法
透水試験:コンクリート自体の水密性は、水分浸透のし易さを表す指標である透水係数とコンクリート構造物の水密性を図る透水量で評価します。この試験は、コンクリートの透水性を直接測定するもので、コンクリートサンプルに水圧をかけ、一定時間内にどれだけの水が通過するかを測定します。
・コンクリートの水密性に影響を及ぼす要因
配合比:水セメント比が低いほど、コンクリートの水密性は向上します。また、セメント量が多く、単位粗骨材量が多いと良いとされています。
骨材の最大寸法:粗骨材の最大寸法が大きいほど、水密性は低下します。
初期欠陥:コンクリート打設時の材料の分離、締め固め不足、型枠下端からのセメントペーストの漏れなどにより粗骨材が多く集まって不良部分が生じると、空隙が多くなり、水密性やコンクリートの中性化抑制効果が低下します。
施工方法:打継目は漏水の原因となるため、原則として打継目はつくらないとされています。また、コンクリートの養生管理は日数と強度で管理し、一般のコンクリートでは、規定の圧縮強度まで硬化が進めば、途中でも養生を打ち切っても良いとされていますが、水密コンクリートでは、一般のコンクリートよりも2日間以上養間を長くし、途中で打ち切ることなく養生をしなければなりません。
混和材:混和材(高炉スラグやフライアッシュなど)は長期的に水和反応が持続し、コンクリート内部の組織が密実になります。
コンクリートのひび割れ
コンクリートのひび割れは主に施工中(硬化途中)に発生するものと硬化後に発生するものに分けられます。施工中に発生する要因としてはプラスチック収縮、コンクリートの沈下、セメントの異常凝結等が挙げられます。硬化後に発生する要因としては乾燥収縮、温度勾配、ASR反応(アルカリシリカ反応)、凍結融解、鉄筋の腐食等が挙げられます。
施工に起因するひび割れ
①プラスチック収縮ひび割れ
プラスチック収縮ひび割れは、コンクリートがまだプラスチック(可塑性を持ち、力を加えると変形する)な状態で、急激な水分蒸発によって表面の体積が減少し、内部の体積は変化しないため、表面だけが収縮(縮まろうとする)することでひび割れが発生する現象を指します。
このひび割れは、コンクリート打設直後に発生し、田んぼの水が干上がった時のひび割れと同じように、網目状のひび割れが発生します。発生時期は、凝結の始まりからブリーディング水が吸収されるまでのごく初期に発生します。
プラスチック収縮ひび割れを防ぐ基本的な対策は、「乾燥(水の蒸発)を防止する」ことです。具体的な対策としては、通気性のないフィルム等でコンクリートの露出面を覆うことや、塗膜養生剤等をコンクリート打込み直後に散布することがあります。
また、コンクリートの配合によってもひび割れの発生しやすさは変わります。例えば、水セメント比が小さいコンクリートは自己収縮とプラスチック収縮ひび割れが生じやすく、水分量が多いコンクリートは乾燥収縮ひび割れが生じやすいとされています。
②沈下ひび割れ
コンクリートの沈下ひび割れは、コンクリートがまだ固まっていない段階で、コンクリート自体が重力の影響で下に沈むことによって生じるひび割れのことを指します。このひび割れは、生コンクリート打設後、比較的早期に発生しやすいです。
具体的には、以下のような状況で発生します。
水平鉄筋の上:一般的には、生コンクリート打ち込み後数時間で水平鉄筋の上に規則性のある直線状の表面ひび割れが発生します。特に鉄筋のかぶりが足りない場合には発生の頻度は多くなります。
型枠面:型枠面ではセパレータの位置にひび割れが入ることがあります。
壁・柱と梁・スラブの接合部:壁・柱と梁・スラブの接合部の上部など高さに差のある部分にも発生しやすくなります。
鉄筋上の沈下ひび割れの概念図を以下に示します。
体積変化に起因するひび割れ
体積変化に起因するひび割れには以下の3つが挙げられます。
- 自己収縮
- 乾燥収縮
- 温度変化による体積変化
自己収縮
コンクリートの自己収縮とは、セメントの水和反応の進行によりコンクリートの体積が減少し、収縮する現象を指します。この現象は、コンクリート中のセメント量が多いと収縮量が大きくなり、ひび割れも生じやすくなります。
自己収縮は、高強度コンクリートや高流動コンクリートなど、水セメント比が低いほど増大する傾向があります。これは、セメントの水和反応により、内部の水分が消費されることが原因となります。
自己収縮による体積変化は乾燥収縮の1/10程度であり、通常のコンクリートではあまり問題とされてきませんでしたが、近年の高強度化によって、自己収縮の影響も考慮されるようになってきています。
乾燥収縮
コンクリートの乾燥収縮とは、コンクリート内部の水分が外部へ蒸発することで体積が減少し、収縮する現象を指します。コンクリート中の骨材や鉄筋、あるいはコンクリート構造物のように、柱や壁部材などによって拘束を受けると自由に変形できないため、コンクリートに引張力が生じます。
コンクリートの引張強さは「圧縮強さの1/10~1/12」とかなり小さいため、この収縮による引張力がコンクリートが保有している引張強さを超えてしまうと、ひび割れが発生します。このひび割れが乾燥収縮ひび割れです。
温度変化による体積変化
コンクリートの温度ひび割れは、コンクリートが硬化・乾燥する過程で生じるひび割れの一つです。新しく打設されたコンクリートは、化学反応(水和反応)によって熱を発生させます。この発生した熱が外部へ放散する際、コンクリート内部の温度と外部の温度との間に大きな差が生じると、熱収縮によるひび割れが発生することがあります。
温度ひび割れのメカニズムは大きく分けて内部拘束と外部拘束の2つに分けられます。
内部拘束による温度ひび割れ:コンクリート部材の温度は水和熱によって上昇しますが、上昇量は部材中心部の方が表面部より大きくなります。これは表面部より中心部の方が放熱しにくい条件下のためです。また、部材厚が大きいほど中心部と表面部の温度差は大きくなります。コンクリート部材の温度差が大きいほど、中心部と表面部の膨張量に差が生じ、周囲が拘束されている中心部では圧縮応力が、放熱により収縮が内部のコンクリートに拘束されている表面部は引張応力が発生します。この引張応力がコンクリートの引張強度以上になると、内部拘束による温度ひび割れが発生します。
外部拘束による温度ひび割れ:上昇したコンクリート部材の温度は徐々に外気温まで下降し、コンクリートは収縮を始めます。この時、下部の既設コンクリートや硬い地盤などに拘束されていると、収縮が妨げられ部材内部に引張応力が発生します。部材内部の引張応力が、コンクリートの引張強度以上になると、外部拘束によるひび割れが発生します。
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